世田谷美術館で開催中の「福原信三と美術と資生堂展」に行ってきました。
空模様はかなり怪しく、傘を持って出掛けるようなお天気でしたが、
美術館に併設されているレストランでランチをしよう、とか
砧公園を少し歩いてみようか、と、前々から楽しみにしていたこの展覧会。
到着したのが13時だったので、レストラン「ジャルダン」でまずはランチを。
公園の大きなヒマラヤ杉や芝生が見えるように、前面はガラス張りのこのレストラン。
燦々と日が降り注ぐ、という風にはいかなかったけれど、
久しぶりに見るいっぱいの緑をすっかり吸収しながら、
美味しいランチをいただきました。
持っていた本(ku:nelの台所の本…)を読みながら食後のお茶を飲んで、充電完了。
いざ美術館に向かうことにしました。
会計を済ませ庭に出てみると、頭上の棚には蔓とたくさんの実が。
じーっとそれに見入っていると、レストランの係りの方が表に出てこられました。
「たくさん実がなっているでしょう。」
「これ、あけびですか?」
「これはむべです。」
「あー、むべですか。」
「はい。あけびの仲間ですね。」
「渋いんですが、 食べられますよ。」
こんな会話を交わしながら、ちょっとかじってみたい衝動にもかられ…
でもそれを押さえ、もう一度挨拶をしてから美術館に続く道を歩き始めました。
この展覧会のタイトルにある
「福原信三」さんという方を、私は知りませんでした。
解説によると、資生堂の初代社長であることが分かりました。
絵画や写真にも造詣が深い福原信三は、薬学の勉強のために
渡米した際にもたくさんの画家との交流をもち、
帰国後に資生堂を継いでからも、
写真集を出版するなどの活動を続けていたそうです。
その一方で経営者として、広告宣伝の重要性を欧米で認識したことから、
資生堂内に意匠部や資生堂ギャラリーを設立し、「リッチでスマートでモダンで」という
資生堂の企業イメージを打ち立てたということでした。
資生堂というと、「銀座」「モダン」などという言葉でイメージされ、
パッケージや広告のデザインに古きよき時代を感じていました。
私には特に、「De Luxe(ドルックス)化粧品」のパッケージが印象に残っています。
これは祖母が使っていたシリーズで、祖母の鏡台には、
この瀟洒なデザインのパッケージが並んでいて、子供心に
何だかとても魅かれていたことを覚えています。
このパッケージをデザインしたのが山名文夫。
(偶然にも母が卒業したデザイン学校の創始者、初代学院長だった方なのです。)
繊細な線で描かれた、植物の蔓、ちょうど唐草模様のような曲線と
その延長線上に描かれた女性というのが、とても特徴的だと思われるのですが、
1950年代に始まった、ドルックスシリーズや、宣伝ポスター、新聞広告は
目を見張るものがたくさん展示されていました。
1998年に目黒区美術館で開催された「山名文夫展」にも足を運んでいたのですが、
やっぱり10年近く経っても、とりつかれてしまうような魅力に変わりはありませんでした。
福原信三のポリシーは「ものごとは全てリッチでなければいけない」。
パッケージや宣伝用ポスターは言うに及ばず、小さなリーフレットや
マッチ箱のラベルの1枚にいたるまで、気品や豊かな表現を求めたリッチの精神。
これが福原信三の美意識だったということです。
大量生産、大量消費の時代になって久しいですが、
こういう時代のこういう精神、今だからこそ回帰の念を感じます。
モノがたくさんあふれているのがリッチなのではなくて、
質の良さこそリッチであるというような。
美意識、というものを改めて感じさせれた展覧会でした。